大阪地方裁判所 昭和23年(行)242号 判決
原告 西村与 外一名
被告 国分町農業委員会・国
一、主 文
原告等の訴を却下する。
訴訟費用は被告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は「別紙目録記載の宅地に関し国分町農地委員会が昭和二十三年に定めた買収計画にもとずく政府の買収は無効とする。右買収計画、これに関する公告、異議却下決定、裁決、承認ならびに買収令書の発行が無効であることを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決をもとめ、その請求の原因としてつぎの通り述べた。
「国分町農地委員会(被告委員会)は、原告西村与所有の別紙目録記載(一)および(二)の宅地と原告西村好郎所有の別紙目録記載(三)の宅地とについて、昭和二三年八月頃自作農創設特別措置法(自作法)第一五条により買収計画を定めてこれを公告したので、原告等は同委員会に異議の申立をしたところ異議申立を却下する旨の決定があり、さらに大阪府農地委員会に訴願したが訴願を却下する旨の裁決があり、同時に同委員会によつて右買収計画に対する承認があり、右訴願裁決書は同年一一月一二日原告等に送達された。そして大阪府知事はその後右買収計画にもとずいて原告等に対する買収令書を発行した。
しかし、右買収計画は、まずつぎの点において違法である。
一、右買収計画においては別紙目録記載(一)の宅地の公簿面積二七一坪七合七勺の一部六五坪、(二)の宅地の公簿面積二二六坪の一部一三五坪、(三)の宅地の公簿面積三一〇坪の一部六九坪をそれぞれ買収の対象としているのであるが、一筆の土地の一部は独立して所有権の対象となり得ないものであるからその一部に対する買収は無効であり、また、買収すべき部分について単にその面積を表示しているだけで一筆中のどの部分を買収するのかその部位を特定していないので結局買収の対象が不特定であり、この点でも無効といわねばならない。
二、右(一)の宅地は訴外西浦鹿蔵の申請にもとずいて買収計画が定められたものであるが、同人は自作法により買収農地等の売渡を受けておらず、同人の養子巳之助がその売渡を受けているが巳之助は右宅地の賃借人ではない。そして(二)の宅地は訴外松井庄太郎の申請にもとずいて買収計画が定められたものであり同人は右宅地の一部の賃借人であるが自作法による買収農地等の売渡を受けておらず同人の長男正勝がその売渡を受けており、正勝は右宅地の賃借人ではない。従つて右西浦鹿蔵および松井庄太郎はいずれも自作法第一五条による宅地買収を申請する資格はなく、その申請にもとずいた右(一)(二)の宅地の買収計画は違法たるをまぬがれない。
三、別紙目録記載(一)(二)(三)の宅地(本件宅地)はいずれも市街地たる国分町の中心地帯にあり、周辺はおおむね非農家であり、同町の農業圏外にあるのでかかる宅地を買収するのは違法である。
四、右買収計画において買収の対価を坪当二四円と定めているがその対価は時価によるべきであり、本件宅地の時価は坪当五〇〇円を下らないので、かかる不当に低額の対価を定めたのは違法である。
つぎに、右の買収計画、その公告、これに対する原告等の異議申立を却下した決定、原告等の訴願を却下した裁決、買収計画の承認、政府の買収および買収令書の発行は、さらにつぎの点で違法であり無効といわねばならない。
一、買収計画 (一)本件買収計画は被告委員会作成名義の買収計画書なる文書をもつて表示されている。しかし被告委員会に備付けてある議事録によれば、右の買収計画書の内容と一致する決議のあつたことが明認し難く、また、決議のあつた買収計画事項の全部が右買収計画書に表明されていない。すなわち、右買収計画書は被告委員会の決議を表明する法定の買収計画と認めるに足りない。
(二)買収計画書は委員会という合議体の行政行為的意思を表示する文書であるから、買収計画書自体に、委員会の特定具体的決議に基いた旨の記載と、その決議に関与した各委員の署名あることを、その有効条件とするが、本件買収計画書には右の記載および署名がない。
二、公告 農地委員会はその決議をもつて買収計画の公告という行政処分をしなければならない。その公告は、買収計画という農地委員会の単独行為を相手方に告知する意思伝達の法律行為である。公告によつて買収計画に対外的効力を生じ、適法な公告があつてはじめて政府と買収利害関係人との間に買収手続という公法上の法律関係が成立するものである。ところで(一)本件買収計画の公告は被告委員会の決議に基いていない。
(二)また、被告委員会の公告ではなくて、その会長の単独行為であり、その専断に出たものである。
(三)公告の内容は買収計画の告知公表たるを要するにかかわらず、現実になされた公告には単にその縦覧期間とその場所とを表示するにとどまる。かかる内容の公告は自作法第六条に定める公告としての要件を欠くものである。
三、異議却下決定 (一)原告等に送致された異議却下決定は、被告委員会がこれと一致する決議をした証跡がない。また被告委員会の議事録に、これを証明するに足る記載がない。
(二)その決定書は会長単独の行為または決定の通知とは認められるが、被告委員会の審判書とみとむべき外形を備えていない。
四、裁決 (一)大阪府農地委員会が原告等の訴願について裁決の決議をした事実はみとめるが、その議決は裁決の主文についてのみ行われ、その主文を維持する理由に関しては審議を欠く。裁決書中理由の部分は会長たる知事の作文であつて、右委員会の意思決定を証明する文書ではない。
(二)裁決書は会長たる知事の名義で作成されているが、会長が右委員会の訴願の審査および裁決の決議に関与しなかつたことは公知の事実である。故に右の裁決書は同委員会の裁決に関する意思を表示する文書ではない。
(三)裁決書を会長名義で作成することは法令上許されない。
五、承認 買収計画につき、市町村農地委員会は自作法第八条に従つて、都道府県農地委員会にその承認を申請し、都道府県農地委員会は、その買収計画に関する法律上事実上の事務処理について違法または不当の点がないか厳密に審査し、その承認を行うものである。すなわち買収計画の承認は、承認の申請に基き買収計画に関し検認許容を行う行政上の認許で、明らかに行政上の法律行為的意思表示であり、行政処分たる法律上の性格を有することは疑の余地がない。
買収計画はその公告によつて対外的効力を生じ、その存在を外部に対抗し得るにいたるが、さらにこれに対する適法有効な承認があつてはじめて、その効力が完成し、ここに確定力を生じ、政府の内外に対し執行力が生ずるものである。反言すれば、買収計画という行政処分は、適法な承認のあつた時に法律上の効力の完成をみるもので、このときに買収計画は確定的客観的に存在をみるものである。
ところで(一)本件買収計画に対しては適法な承認がない。大阪府農地委員会は、今次の農地改革における各買収計画に対し法定の承認決議をした外形があるが、あるいは市町村農地委員会の適法な申請に基かないものがあり、あるいは承認の決議が訴願に対する裁決の効力発生前になされたものがあつて概して承認の決議自体無効である。このことは本件買収計画に対する承認についても同様である。
(二)本件の買収計画に対して承認の決議はあつたが、この決議に一致する大阪府農地委員会の承認書が同委員会によつて作成されていない。また被告委員会に送達公知されていない。すなわち買収計画に対する適法な承認の現出公告を欠く。故に承認なる行政処分は存在しない。かりに、右の決議をもつて承認があつたものとするも、かかる決議は法定の承認たる効力がない。
六、政府の買収 自作法による農地宅地等の政府による買収は一種の公用徴収である。この政府の買収には広狭二義あり、狭義においては買収を目的とする行政処分のみを意味し、広義においてはこの処分とその執行を包含する。狭義における政府の買収に関しては、特定の行政庁において独立の文書でこれを表示することなく、広義における政府の買収に関しては、知事が買収令書なる文書を発行してこれを被買収者に交付し又は公告し、これによつて狭義の買収処分すなわち行政処分を執行し、広義の買収すなわち公用徴収を客観的に具現完遂する次第である。そして狭義の買収は政府自ら行わず、その買収権限を各農地委員会に委譲し、各委員会はその決議をもつて買収計画を確立しこれを公告し、異議訴願なる中間手続を経た後認可または承認により各買収計画の確定をみる。すなわち狭義の政府の買収は政府自らの行政処分に属せず、政府から買収権限の委譲を受けた各委員会の行政処分に外ならない。そしてこの処分は買収計画に対する認可または承認が適法に行われその効力を生じたことによつて成立する。しかし法律はこの場合、政府の買収の成立したことを外部に公表する独立の文書を要求しない。すなわち政府の買収に関しては、政府自らもまた各委員会も独立した政府買収令書なる文書を作成することを要しない。故に政府の買収なるものは、買収計画に対する認可または承認なる外形的行為すなわち認可書または承認書が各委員会に送達せられたという法律事実の現出によつてその成立を確認すべきである。従つて政府の買収の有効無効は究極するところ買収計画および買収手続の有効無効の判定である。買収計画ないし買収手続上の各行政処分のいずれかに瑕疵があり無効であれば、買収そのものも無効である。
七、買収令書の発行 政府の買収なる行政処分は知事の買収令書の発行なる行政処分により執行せられる。この買収令書が適法に交付または公告され、執行の効力が完全に生じた時に政府の買収なる行政処分は完全に目的の達成をみる。すなわち広義の政府の買収は買収令書の適法なる発行をその被買収者に対する適法なる告知により客観的に具現し終局を告げる。この買収令書は具体的に言えば認可または承認によりその確定力を生じた買収計画の執行処分に外ならない。右の通り買収令書の発行は政府の買収という行政処分の執行であり、買収計画について適法有効な認可または承認のあつたことを先決要件とする。
従つて本件の政府の買収は無効であり、また買収計画、その公告、これに対する異議申立を却下した決定、訴願を却下した裁決、買収計画の承認、買収令書の発行はすべて無効である。」
また被告等の主張に対し、つぎの通り述べた。
「大阪府知事から原告等に対し、昭和二七年二月五日付の「買収令書の取消について」と題する文書で、本件宅地につき昭和二三年一〇月二日を買収期日とする買収令書を取消す旨の通知が到達し、また被告国分町農業委員会は本件宅地についての買収計画を取消す旨の決議をした。しかし、右は自作法による政府の買収という行政処分を取消す効力がない。何となれば、本件宅地はすでに政府の所有に帰し、各買受申込人に売渡され、政府の買収はその目的を遂げて法律上現存しないので、これを取消の対象とすることはできないからである。」
被告等訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する」との判決をもとめ、答弁としてつぎの通り述べた。
「被告委員会は、別紙目録記載(一)の宅地(六五坪、実測七三坪四合九勺)については、昭和二三年七月二三日買収計画を定め、同月二八日から同年八月七日まで買収計画書を縦覧に供し、原告西村与から同月五日異議の申立があつたので同月一八日異議の申立を却下する旨の決定をし、同原告が同年九月四日大阪府農地委員会に訴願をしたのに対し、同委員会は同月三〇日訴願を棄却する旨の裁決をした。別紙目録記載(二)の宅地(一三五坪)については、昭和二三年九月二七日買収計画を定め、同月二八日から同年一〇月八日まで買収計画書を縦覧に供し、原告西村与から異議の申立があつたので同月一九日異議の申立を却下する旨の決定をし、同原告が同年一一月四日大阪府農地委員会に訴願をしたのに対し同委員会は同年一二月一日訴願を棄却する旨の裁決をした。別紙目録記載(三)の宅地(六九坪五合五勺)については、昭和二三年七月二三日買収計画を定め、同月二八日から同年八月七日まで買収計画書を縦覧に供し、原告西村好郎から異議の申立があつたので同月一八日異議の申立を却下する旨の決定をし、同原告が同年九月四日大阪府農地委員会に訴願をしたのに対し同委員会は同月三〇日訴願を棄却する旨の裁決をした。そして右各裁決書は昭和二三年一一月一二日原告等に送達した。
本件宅地についての右各買収計画は自作法第一五条により、各賃借人の申請によつて定めたものである。
(一) 別紙目録記載(一)の宅地については、訴外西浦鹿蔵の申請にもとずいて買収計画を定めたものであるが、同人は以前から右の宅地を賃借し、地上に建物を建設所有しており、耕作面積七反の専業農家で、自作法により買収農地二反四畝の売渡を受けている。
(二) 別紙目録記載(二)の宅地については、訴外松井庄太郎の申請にもとずいて買収計画を定めたものであるが、同人は数年前から右宅地を賃借し、地上に建物を建設所有しており、耕作面積一町二反六畝の専業農家で、自作法により買収農地一反三畝の売渡を受けている。
(三) 別紙目録記載(三)の宅地については、訴外青木彌三郎の申請にもとずいて買収計画を定めたものであるが、同人は数年前から右の宅地を賃借し、地上に建物を所有しており、耕作面積七反の専業農家で、自作法により買収農地四反八畝二五歩の売渡を受けている。
従つて、右各賃借人の買収の申請は適法であつて、この点買収計画に違法はない。
しかし、右の買収計画において、買収すべき土地の表示が明瞭でなかつたので、大阪府知事は昭和二七年二月五日、さきに右の買収計画にもとずいて原告等に交付した買収令書を取消し、同日の大阪府公報に告示第四七号としてその旨を公告するとともに原告等に通知し、被告国分町農業委員会は同年二月五日右各買収計画を取消し、同月六日その取消について大阪府農業委員会の承認を得、右取消を公告するとともに原告等に通知した。これによつて、本件宅地についての右買収計画およびこれにもとずく大阪府知事の買収処分はすべて適法に取消されたもので、もはや本訴においてその無効の確認をもとめる利益はない。」
(証拠省略)
三、理 由
一、自作法第一五条による宅地の買収は、市町村農地委員会、都道府県農地委員会、都道府県知事の三つの行政庁によつてなされる一連の行為すなわち手続によつて行われるもので、まず市町村農地委員会が買収計画を定め、その旨を公告するとともに買収計画書を作成して縦覧に供し、所有者から異議の申立があるとこれに対する決定をし、その決定に対し訴願があると都道府県農地委員会はこれに対する裁決をし、その後市町村農地委員会からの申請によつて買収計画の承認をし、承認のあつた買収計画にもとずいて都道府県知事は買収令書を所有者に交付し、場合によつてはこれにかえてその内容を公告する。その買収令書の交付またはそれにかわる公告(以下単に買収令書の交付という)があると、その宅地について国が所有権を取得し従来の所有者の所有権が消滅する等買収の法律効果が発生することになるわけである。買収令書の交付があると右の法律効果が発生し、その交付のないうちはその法律効果は発生しない。そこで右の法律効果は買収令書の交付によつて発生するといつてもよい。(それで、以下買収令書の交付を適当に買収処分という。)ところで、右の法律効果が発生するためには、右の一連の行為がすべて法律のこれについての規定に適合して、すなわち適法になされていなければならない。いずれかの行為が違法であれば買収処分があつても右の法律効果が発生しない。法律効果が発生しないという意味で買収処分の違法ということをいうならば、それまでの各行為の違法はすべて買収処分を違法にする。すなわち、前の行為の違法をすべて買収処分が承継するということができるが買収令書の交付だけで独立して法律効果を発生させるものでないことの表現である。
さて、通常の民事訴訟において訴訟の目的が直接に現在の権利または法律関係の存否でなければならないのに対して、行政処分の取消をもとめまたはその無効の確定をもとめる訴訟においては行政処分の効力の存否が訴訟の目的となつているのであるが、しかし、実質的には結局その行政処分によつて発生消滅または変動する一定の権利または法律関係の確定がもとめられているものと考えてよい。この点からいつて、訴訟の目的たりうる行政処分はその効力の確定が、一定の権利または法律関係を直接確定するに適したものでなければならない。
そこで、これを自作法第一五条による宅地買収の手続についてみると、この手続は宅地の所有権の得喪とこれに附随した一連の権利の得喪という一定の法律効果に向けられた手続であつて、その手続の効力を争うことは結局実質的には右の一定の法律効果を争うことにほかならない。これを訴をもつて争う場合右の手続のうちのどの行為を行政処分としてとらえて、その効力について争うのが適当したがつて適法かといえば、買収令書の交付がこれに当ることは前にのべたところによつて明らかである。その効力が否定されることは、すなわち全手続による法律効果が否定されることであるし、そのためには手続上の各行為の適否はすべて判断を受けることになること前にのべた通りである。
買収処分のある前に、その前段階の各行為をいちいち訴訟の目的とすることは、その手続による法律効果がまだ発生する段階にいたつていないのに先走つて小きざみに、法律効果としてこれから発生すると考えられる権利の変動を争うことになり、訴訟の実質的な目的である権利ないし法律関係がまだ可能の状態にあつて現実化していないことからいつても、また、それらの各行為の効力が(たとえば有効と)確定されても、直ちに買収の法律効果が(たとえば有効と)確定されるものでもないことから考えても、前に民事訴訟の原則と対比して述べたところからいつて、一般に適当でなく、いまだ訴の目的とするに熟していないものといわねばならない。また、買収処分のあつた後は、買収処分の効力を争えば足り、各行為の効力を独立して確定する必要がないし、確定したところで、直ちに買収の効果を確定するに足りないこと右にのべた通りである。
ただ、買収計画は右の点で例外的な地位をもつ。上記の民事訴訟の原則は、裁判制度が社会の法律生活の必要に対し一定の限度で利用に応ずるその対応の仕方を形式化したもので、裁判制度を利用するに足る必要の程度を限定した形式である。その形式からもれても、必要としてはその形式に適合した場合と異らない場合もでてくるわけであつて、法律は各個にそれらをひろいあげて訴の目的とすることができる規定をおいてこれに対処しているが(たとえば文書真否確認の訴訟)法律の特別の規定のない場合にも理論的に測定して訴の目的とする必要のある場合にこれをみとめることが、制度の趣旨に合うものといわねばならない。これを買収計画についていうと、農地買収手続におけると同じく宅地買収手続においても、買収計画がその中核をなし、その後の行為はその実現の過程である点から、自作法はとくにこれに対してその段階で異議の申立および訴願をすることをみとめており(かえつて買収処分に対しては異議の申立および訴願をみとめていない)、買収計画はその公告によつて、宅地の権利者に現状維持の義務を生じさせるという附随的ではあるが独立した法律効果をもつている点を別にしても、買収手続の基本をなすところから考えて独立して訴の目的とすることをゆるすのが法の趣旨に合致するものということができる。そして、買収計画に対する異議の申立に対する決定および訴願に対する裁決は、買収手続におけるいわば副次的な過程で、買収計画そのものに附随した行政的救済の手続である。したがつて買収計画が訴の目的とすることができる以上、いわばその延長として、これらの処分も訴の目的とすることができるといわねばならない。
二、原告が本訴で請求の趣旨として、無効の宣言なり確認なりをもとめているものを数えると、本件宅地についての「政府の買収」と、「買収計画」とその「公告」と、買収計画に対する「異議の申立を却下した決定」と「訴願を棄却した裁決」と「承認」と、「買収令書の発行」とである。
そのうち、訴の目的として、「買収計画」と「異議の申立を却下した決定」と「訴願を棄却した裁決」とが一応適法なこと、「公告」と「承認」とが不適法なことは上に述べたところから明らかである。
「政府の買収」については、原告は買収手続のうち、買収計画から承認までの過程に、通じて一の行政処分を観念し、これを政府の買収とよぶ。しかし、訴訟で買収手続の法律効果を行政処分の効力として争う場合、買収処分の効力を訴の目的として争えば足り、買収計画(およびこれに関する異議についての決定と訴願に対する裁決)は別として、買収手続上のその他の行為の効力を特に訴の目的とすることの不適当で許されないことは上に述べた通りであり、まして、買収計画をふくむ承認までの過程について、総括的な一の行政処分を観念して、その効力を訴の目的とするというようなことは、無意味な重複を重ねるだけのことで、とうてい許されるところではない。従つて、本訴のうちこの部分も不適法として却下をまぬがれない。
「買収令書の発行」について、原告はこれを買収令書の交付とは別に考えているようでもあり、買収処分は買収令書を作成しそしてこれを交付するわけであるが、意思表示たる行政処分として買収処分(買収令書の交付)は、買収令書の作成とその交付を含む一の行政処分で、作成の部分だけきりはなして別個の行政処分と考えるべきではない。原告は買収処分のうち買収令書の作成の点に重きをおいたため、これを切りはなして「買収令書の発行」としたものであるが、その趣旨は結局買収処分の効力を訴の目的としたものと考えられる。そして、買収処分の効力が訴の目的として適法なことは上に述べた通りである。
三、本件宅地について、被告委員会が自作法第一五条により、(一)および(三)については昭和二三年七月二三日、(二)の宅地については同年九月二七日買収計画を定め、原告等からそれぞれ異議の申立があつたのに対し、その異議の申立を却下する旨の決定をしさらに原告等から大阪府農地委員会に訴願をしたのに対し、同委員会がその訴願を棄却する旨の裁決をし、その裁決書が原告等に送達されたこと、大阪府知事が右買収計画にもとずき原告等に本件宅地の買収令書を交付したことは当事者間に争がない。
そして、大阪府知事が昭和二七年二月五日の文書でその頃原告等に右の買収令書を取消す旨の通知をしたこと、被告国分町農業委員会が右買収計画を取消す旨の決議をしたことも当事者間に争がない。なお、成立に争のない乙第二、三、四号証によれば右の取消は本件宅地の買収計画および買収処分において、買収の対象がそれぞれ一筆の土地の一部でありその買収部分の表示が明瞭でなかつた点に違法があつたとしてなされたものであり、被告国分町農業委員会は昭和二七年一月二九日右の買収計画を取消す旨の決議をし、同年二月六日大阪府農地委員会によりその取消について承認を得た上、同月八日右の取消を公告したことがみとめられる。
そうすると、右によつて本件宅地に対する買収処分も買収計画もすでにすべて取消されていることが明らかであつて、原告は右の取消が買収処分もまた売渡処分も行われてしまつた後になされた取消で違法であり、効力がないと主張するが、右のように買収部分が不明瞭であつたことは原告も主張して争のないところであり、買収の対象が不明瞭であれば売渡の対象も不明瞭とならざるを得ないので、その点の違法を理由とする取消は売渡処分の後に行われたとしても適法といわねばならない。
そこで、右のように、本件宅地についての買収処分および買収計画が取消によつてすでにはじめから効力がなかつたことになつた現在、その取消の効果と同じ法律状態の確定を目的とする本訴は結局もはやこれを維持して判決をもとめる利益を欠くにいたつたというべきであり、買収計画に対する異議の申立を却下した決定および訴願を棄却した裁決についても、それらが買収計画の効力をはなれて意味のないものである以上同様である。この意味で本訴のうち、買収計画、これに対する異議の申立を却下した決定、訴願を棄却した裁決および買収処分の無効宣言またはその確認をもとめる部分も、現在では不適法として却下するほかはない。
以上の理由によつて、原告等の訴をすべて却下することとした。
訴訟費用の負担については、本訴の主要の部分が、被告国分町農業委員会および被告国の機関たる大阪府知事の、原告等の本訴における主張をみとめた取消処分によつて不適法となり却下されることになつたことから考えて、民事訴訟法第九〇条により、すべて被告等の負担とするのが相当である。
よつて、主文の通り判決する。
(裁判官 山下朝一 鈴木敏夫 萩原寿雄)
(目録省略)